「特別展 芸術の旅人 堂本印象の世界展 ~エスキスからタブローへ 情熱の真髄~」
(2018.4.29-9.2/前期4.29-7.1 後期7.5-9.2)
会場:金谷美術館
会期:■平成30年4月29日(日)~9月2日(日)
□前期展示:4月29日(日)~7月1日(日)
□後期展示:7月5日(木)~9月2日(日)
観覧時間:10:00~17:00(入場は16:30まで)/休館日:火・水曜日(祝日の場合は開館)
観覧料:一般800円/中高生500円/小学生以下無料/障害者手帳お持ちの方無料(団体20名以上1割引)
主催:公益財団法人 金谷美術館
特別協力:京都府立堂本印象美術館
協力:株式会社たづアート
後援:千葉県/富津市/富津市教育委員会/読売新聞千葉支局/朝日新聞千葉総局/千葉日報社
企画・構成:岩波昭彦
・謝辞
本展覧会「~エスキスからタブローへ~芸術の旅人 堂本印象の世界展」開催にあたりまして、数々のご支援とご協力を賜りました皆様に心より厚く御礼を申し上げます。(敬称略、順不同)
京都府立堂本印象美術館
三輪晃久
入江錫雄
山田由希代
松尾敦子
森井毅
千葉県
富津市
富津市教育委員会
読売新聞千葉支局
朝日新聞千葉総局
千葉日報社
・会場風景(内覧会)
4月28日(土)内覧会レセプションにて
鈴木裕士金谷美術館理事長のご挨拶
4月28日(土)内覧会レセプションにて
左より 株式会社たづアート・森井毅社長様、岩波昭彦、富津市長・高橋恭市様、金谷美術館理事長・鈴木裕士様
・展覧会フライヤー
・展覧会図録
ー 優れた日本画を生み出した写生と下絵の重要性 ー
企画・構成 岩波昭彦
この展覧会は、いかにして次々と優れた作品が生み出されたか、写生や下絵など、その制作過程に焦点を当てたものです。
京都府立堂本印象美術館所蔵の初期から晩年までの前期と後期を合わせた全74点の名品が揃い、大正という時代を描いた「坂」(大正13年)、宗教画家として大きく華開いた「観音と文殊」(昭和18年)、そして、創造主義にふみきった六曲屏風一隻「はるかなる海」(昭和42年)などの名作と共に日本画の制作に欠かせない本画(タブロー)の原点ともいうべき写生や下図(エスキス)を加え、その足跡を展望しようとするものです。
芸術創造のために人生をささげ、昭和30年に発表された「堂本印象著『美の跫音』」の言葉からは、華厳五十五所を行く魂の求道者、善財童子の旅と画家の歩む姿を説かれています。膨大な労力と情熱を傾けられ、数々の画風・スタイルを確立した作品は観るものを魅了し、感動させ、時には衝撃をもって人々に生きる喜びを与えてくれます。
―写生とは―
重要文化財などを含めた多くの日本画群の中で、狩野芳崖先生の「悲母観音」や梶原緋佐子先生の「夕立」など多くの名作には必ずと言って良いほど、そのままでも本画に引けをとらない美しい写生や下図があります。
あまりに有名な「写生」の先駆者とも言うべき、十八世紀後半に円山派を創始した円山応挙先生は「真物ヲ臨写シテ新図ヲ編述スルニアラズンバ、画図ト称スルニ足ンヤ」と写生主義を主張し、明治維新後の東京美術学校の新案重視と京都府画学校の写生重視の違いはあっても脈々と現代へと引き継がれています。そこには、ただ形を画面に写すだけではなく、被写体をとり巻く目に見えない空気や視・聴・嗅・味・触の五感を含め、画家の意図や精神性をも表現しようとする「写意」を理解することが重要とされています。
―下絵を描く―
基本的な手法としては、鉛筆と色鉛筆や墨と水彩絵の具で彩色を施すといったものが主流で、画用紙や麻紙などさまざまな素材を使い、岩絵の具で本画と見まごう程にまで描き込まれたものも数多くあります。そうする理由として、麻紙や絹地が張り込まれた本画を描く時、一度描いた線はなかなか消せず、自由に塗り直せないという点があり、必然的に一発勝負となります。ですから繰り返し構想を練る場合や構図を決定する場合に小下絵(設計図のようなもの)の存在が不可欠となります。また、写生や下絵を作らない場合、時間が立つと最初に受けた感動や構図・意図にズレが生じる為、写生や下絵にしっかりとどめておく必要性があります。
この展覧会では多くの小下絵を本画と並べ、画家の優れた意図や息遣いを感じ取っていただく良い機会となるでしょう。
―師と弟子―
明治中頃より西洋の写実画法を意欲的に取り入れ、描かれた動物からは匂いが漂うと言われた戦前の京都画壇を代表する巨匠・竹内栖鳳門下の西山翠嶂先生に師事された堂本印象先生は、宗教・障壁画家として人々を魅了し、日本画の伝統を継承しながらも、現代社会の風俗に鋭く切り込んだ斬新な表現から、ついには時代を遙かに先取りし、1940年代のアンフォメルの先駆けとなったジャン・デュビュッフェやジャクソン・ポロック、フランツ・クラインなどの活動から産声を上げた抽象表現主義の欧米の最先端芸術運動と対峙しながらも、更に独自の作風を確立させたことで20世紀美術史に燦然と輝く金字塔を打ち立てました。世界を驚嘆させた抽象表現に移行していったその偉大な業績と、時代を超え偉大な師から弟子達へと受け継がれるさまざまな教えと芸術を追究する厳しい姿勢を今に伝え、私を含め若い作家達の憧れと模範となり、多くの人々の心を捉えて放しません。
師によって残された優れた芸術作品による伝統を受け継ぎ生み出されたものと、対極に誰もが成し遂げたことのない革新的な表現にも挑戦された、多岐に渡る「芸術の旅人」堂本芸術の情熱の真髄をより深く知っていただく機会になるものと思っております。
開催にあたりまして、貴重な作品の出品をご快諾賜りました日本画家であらせられる三輪晃久館長様はじめ、京都府立堂本印象美術館様に心より厚く御礼申し上げます。
岩波昭彦/日本美術院特待 産経新聞社東京本社勤務 美術記者会会員